序文『私の「志」』
平成14年1月1日より日本経済新聞紙上に「私の履歴書」が連載された。
それを1冊にまとめて上梓されることになった。振り返って見ると,社会人になってからヤマト運輸の経営者として一筋に歩んできた道であった。いいかえると宅急便と共に歩んだ道でもあった。宅急便をやろうと決めたときから脇目もふらずに進んで来たが,新しいことを考えるのは楽しいことだった。
目的が決まる。目標が掲げられる。実現するための方法を考える。経営とは考えることである。でも考えてもわからないことがある。そのときはやってみる。やってみれば分かることが多い。そうして試行錯誤しながら前進する。やれば分かる・・・私が経営者として体得したことの一つである。
経営はロマンである。だから経営は楽しい。目標を決め方法を考え実行する。この緊張感は溜まらない。
目標を決めるときに考えるスタンスを決める。スタンスを決めるということは視点を確認するすることである。視点が定まらないと計画の成功は覚束ない。私は徹底して顧客の視点を重視した。自画自賛になるが,宅急便が成功したのは,利用者の視点を忘れなかったからだと思う。
宅急便を考えたとき,単なる一企業の事業ではなく,社会的なインフラになるし,そうしたいと思っていた。思い上がったことだったかもしれないが,それは私の「志」だった。私は経営者に必要なのは「志」だと思っている。
私には行政に楯突く男というレッテルが貼られている。なぜ楯突くかというと筋の通らないこよが嫌いだから出会う。というより筋の通らない事が許せないからである。
私には町人の血が流れている。本能的にお上に楯突くことが多い。要するに権力が嫌いなのである。
大学を出てヤマト運輸に入社して,泥臭い職業を選んだものだと思ったことがある。労働集約産業は資本集約産業と違い,労務管理に精力を取られるなど,地味で前近代的な仕事が多いからである。
でもヤマト運輸を退任してみて,しみじみ良い仕事を選んだと思ったことである。それは,運送の仕事は極めて人間臭いものだからである。社員との接触,顧客との接触など心がふれあうことが多いからである。
どんな人にも良いところがある。結局悪い人はいないと思う。私はどんな人にも親切にしようと心掛けてきたつもりである。座右の銘はと問われたら,「真心と思いやり」と答えることにしている。
- Publisher : 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (January 1, 2003)
- Publication date : January 1, 2003
- Language : Japanese
- Paperback Bunko : 220 pages
- ISBN-10 : 4532191629
- ISBN-13 : 978-4532191627