■『日本語教育,米で裾野拡大』(日本経済新聞 2月29日夕刊)

日本語教育、米国で裾野拡大 教員の移住支援で日米合意

【ロサンゼルス=羽鳥大介】
米国での日本語教育強化に向け、日米両政府は日本人教員の米国移住を後押しする。今秋にも日本語を教える資格を得やすい州の情報を公開する。日本語教育は知日派を増やして両国関係を円滑にする役割を草の根から担ってきた。教員が高齢化し先細りする懸念が強まっており、若手教員の確保を急ぐ。

文部科学省と米国国務省が2023年10月,教育分野での包括的な協力強化で合意し,日本語教育の充実が盛り込まれた。米国が重要と位置づける言語の中でも日本語を優先的に扱い,米国移住を希望する日本人教員への情報提供を進めることを確認した。

文科省などによると米国の学校で教えるには資格が必要で,日本の教員免許だけでなく,現地の大学で教育方法などを学ぶ必要がある。単位数などの条件は州で異なる。

公立校の正規教員になれば年収約6万ドル(約900万円)を得られる州もあり,興味を持つ日本の教員や大学院生は少なくない。ただ必要な単位数などの把握に手間がかかり,ビザ(査証)取得の支援も学校などから得にくいため断念する人もいるという。

両政府は手始めに,米国で教えるために必要な条件を記したマップを秋にも公開し,移住先候補を調べやすくする。
協議は継続中で日本側は今後,教員資格取得に必要な条件やビザ取得要件の緩和を求めていく。

国際交流基金によると,米国で日本語教える教員は21年度で4109人。前回調査の18年度から88人増えたものの,12年度比では4%減った。教育機関は1241校で18年度から14%減った。中国語や韓国語との競合が背景にあるとみられる。

教員の高齢化も進む。米国で日本語を教える教員らで作る中部大西洋岸日本語教師会が,教員を対象に23年10月に実施した調査によると,回答した305人のうち,54%にあたる165人が51歳以上だった。30歳未満は8人にとどまった。

今後,高齢を理由にした退職者増が見込まれるなか,若手が入ってこなければ安定的に教育を続けられなくなる。

日本の大学院生らを日本語講師として米国の大学に派遣するALLEX(アレックス)財団(マサチューセッツ州)では20年近く前まで年300人ほどいた応募者が年100人ほどに減った。留学先が米国以外に多様化したことや,円安による米国滞在費の負担増が響いている可能性がある。

両政府は今回,米国への若手日本語教員の派遣プログラムに加え,アレックス財団などの活道支援でも合意した。

カリフォルニア大ロサンゼルス校の日本語科で教える高倉あさ子シニアレクチャーは「海外で教える経験は教員以外の道を選んだり,帰国して日本の学校で教える際にも役に立つ。若手教員には柔軟な考えを持ってほしい」と話している。
(日本経済新聞2月29日夕刊)